全国展開奮闘記 #5|ケアマネのOJTを教える人の経験だけに依存させない
ケアマネジャーのOJTを特定の先輩の経験や善意だけに頼らないために、何を標準化し、何を個別に判断するのか。かいごの窓口が検討する相談体制と業務の型を紹介します。
執筆:かいごの窓口編集部

前回は、ケアマネジャーが復職したあとの30日間を、どのような順序で支えるかについて書いた。
1週目は仕事の全体像と相談先を知る。2週目は書類作成や連絡調整を一緒に行う。3週目は一部の業務を任せ、必ず振り返る。4週目は習得状況を見ながら、担当開始を個別に判断する。
しかし、この流れを決めるだけでは十分ではない。
OJTの内容が教える人によって大きく変われば、復職する方の安心も、身につけられる内容も変わってしまう。教える人が休んだり、異動したりすれば、受け入れそのものが止まる可能性もある。
かいごの窓口を全国へ広げるのであれば、OJTを特定の先輩の経験や善意だけに頼らない仕組みが必要になる。
今回は、相談体制と業務の標準化をどう考えているのか、現在の方針を整理する。
経験のある人ほど、教え方を言葉にするのが難しい
ベテランのケアマネジャーは、訪問前に確認すること、会話の中で気づくこと、記録に残すべきことを自然に判断している。
長年の経験によって身についた判断は、現場にとって大きな財産だ。
一方で、それを初めての人へ教えるとき、「状況を見れば分かる」「経験すれば身につく」という説明だけでは伝わらない。
教える側に悪気がなくても、何を質問すればよいか分からない人は、理解できていないことを言い出せない。教わった内容が人によって違えば、どれが事業所の共通ルールなのかも分からなくなる。
経験をなくすのではなく、経験から得た知恵を、他の人も使える形にする必要がある。
標準化したいのは「答え」ではなく「確認の流れ」
利用者の状況は一人ひとり異なるため、すべての支援をマニュアルどおりに進めることはできない。
ケアマネジャーの専門性まで一つの答えに揃えることが、標準化の目的ではない。
共通にしたいのは、判断する前に何を確認し、迷ったときに誰へ相談し、決めた内容をどこへ残すかという流れだ。
例えば、次の項目は事業所として共通にできる。
- 訪問前に確認する利用者情報と前回記録
- 訪問後に記録する項目
- 状態変化があった場合の共有先
- 緊急時の連絡順序
- 判断に迷ったときの相談経路
- 書類や記録の保存場所
- 担当者不在時の引き継ぎ方法
確認の流れが共通になれば、支援の判断は一人ひとりに合わせながら、確認漏れや情報の分散を減らせる。
相談を「本人から声を上げること」だけに頼らない
相談体制を用意しても、「困ったら相談してください」と伝えるだけでは機能しないことがある。
復職直後は、何が分からないのか自分でも整理できないことがある。忙しそうな先輩へ声をかけることを遠慮する人もいる。質問することで、能力がないと思われるのではないかと不安になる場合もある。
そのため、相談は本人が困ったときだけに行うものではなく、あらかじめ業務の中へ組み込みたい。
現在考えているのは、次のような形だ。
- 毎日、短時間でも振り返る時間を決める
- 「できなかったこと」だけでなく「迷ったこと」を確認する
- 翌日に確認する内容を一つ決める
- 週ごとに習得状況と次の業務範囲を見直す
- 緊急時と通常時で相談先を分ける
- OJT担当者以外にも相談できる人を明確にする
相談することを本人の勇気に任せず、相談が自然に発生する流れをつくることが重要だと考えている。
担当者一人ではなく、事業所で育てる
OJT担当者を決めることは必要だが、その人だけがすべてを抱える仕組みにはしたくない。
一人の担当者だけに依存すると、その人の業務負担が大きくなる。相性や勤務日によって、質問できる機会が減ることもある。
日々の実務を一緒に確認する人、制度や運営基準を確認する人、難しいケースを相談する人。役割に応じて複数の職員が関われる形が望ましい。
また、相談した内容や決まった対応が担当者同士の会話だけで終わらず、必要な範囲で記録されることも重要になる。同じことで別の人が迷ったとき、過去の判断を確認できるからだ。
人が変わっても相談が続き、事業所として知識が残る仕組みをつくりたい。
CareSpaceで情報の置き場所を統一する
業務を標準化しようとしても、必要な情報が紙、個人のパソコン、共有フォルダ、手書きメモへ分散していれば、同じ流れで仕事をすることは難しい。
かいごの窓口では、CareSpaceを活用し、利用者情報、記録、書類、連絡内容の置き場所をできるだけ統一していく。
前回の記録や関係者から届いた書類を探す時間を減らし、担当者が休みでも経緯を確認できる状態をつくる。
AIによる記録作成の補助も、文章を自動で完成させるためだけのものではない。面談内容を整理し、確認すべき情報を見つけやすくし、記録の抜けを減らすために活用する。
システムに仕事を合わせるのではなく、事業所として共通にしたい業務の流れを、システムによって支えるという考え方だ。
標準化しても、一律にはしない
共通のチェック項目や相談の流れをつくると、全員を同じ速度で進ませたくなるかもしれない。
しかし、復職する方の経験、ブランクの期間、得意な業務、家庭の状況はそれぞれ異なる。
確認する項目と相談できる仕組みは共通にする。一方で、担当を持つ時期、件数、ケースの難易度、同行が必要な期間は個別に判断する。
共通の土台があるからこそ、その人に合わせて柔軟に変えられる状態を目指したい。
完成したマニュアルではなく、改善され続ける仕組みへ
今回書いた相談体制と標準化も、完成済みの制度ではない。
これから実際に運用すれば、チェック項目が多すぎる、振り返りの時間が取れない、相談先が分かりにくいといった問題が出てくるはずだ。
その問題を、現場の努力不足として片づけない。
どこで止まったのかを確認し、業務の流れ、教え方、CareSpaceの機能を改善する。そして、改善した内容を次の受け入れへ生かす。
一人の優秀な人がいるから成り立つ事業所ではなく、誰かが加わったときに、事業所全体で支えられる場所にする。
ケアマネジャーとしてもう一度働きたい方が、経験やブランクについて率直に話せること。働き始めてからも、一人で判断を抱え込まないこと。
その土台をつくることが、かいごの窓口を全国へ広げるために必要だと考えている。
次回は、業務を標準化する中でも、利用者一人ひとりに合わせた支援を失わないために、何を共通化し、何を現場へ任せるのかを書きたい。
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