全国展開奮闘記 #8|成功事例だけでなく、失敗も拠点同士で共有する
かいごの窓口を全国へ広げるうえで、成功事例だけでなく、迷った判断やうまくいかなかった取り組みを拠点同士で共有し、ケアマネジャーが一人で抱えない仕組みを考えます。
執筆:かいごの窓口編集部

前回は、全国共通の仕組みを持ちながら、地域ごとに異なる社会資源や人とのつながりを支援へ生かすことを書いた。
各地域で判断する余白を残すのであれば、次に必要になるのは、その判断から得た学びを拠点の中だけで終わらせない仕組みだ。
うまくいった支援や運営方法を共有することは比較的しやすい。
一方で、本当に他の拠点の役に立つのは、判断に迷ったこと、連携が進まなかった理由、実施したが定着しなかった仕組みかもしれない。
かいごの窓口を全国へ広げるなら、成功を並べる組織ではなく、失敗を次の改善へ変えられる組織にしたい。
成功事例だけでは、再現に必要な条件が分からない
例えば、地域の医療機関との連携がスムーズになった事例があったとする。
「定期的に情報共有を行った結果、連携が改善した」と聞けば、他の拠点でも同じ取り組みを始めたくなる。
しかし、実際には次のような条件が影響しているかもしれない。
- 以前から担当者同士の関係があった
- 共有する内容と頻度を事前に決めていた
- 最初は電話やFAXが増え、調整に時間がかかった
- 個人情報の扱いについて確認が必要だった
- 参加できない職種があり、別の共有方法をつくった
- 一度は中断し、内容を減らして再開した
結果だけを共有すると、他の拠点は同じ形をまねる。しかし、背景と途中の失敗が分からなければ、少し条件が違うだけで「自分たちの地域では使えない」と判断してしまう。
成功を再現するためにも、うまくいかなかった過程が必要になる。
失敗を共有しにくい理由
介護の仕事では、失敗という言葉を使いにくい。
利用者の生活や安全に関わるため、軽く扱うことはできない。また、専門職として判断を間違えたと思われたくない気持ちもある。
運営面でも、「他の拠点ではできているのに、自分たちはできなかった」と比較される不安がある。
そのため、問題が起きても次のような形で終わりやすい。
- 担当者だけが反省して終わる
- 拠点内の口頭の会話だけで終わる
- 結果だけを報告し、迷った過程を残さない
- 個人の能力や経験不足として整理する
- 落ち着いた後に振り返る時間を取れない
これでは、別の人や拠点で同じ問題が起きる。
共有する目的は、責任を曖昧にすることではない。何が起き、なぜその判断をし、次は何を変えるのかを組織の知識として残すことだ。
共有したいのは、正解ではなく判断の材料
地域も利用者も異なるため、ある拠点の答えをそのまま他の拠点へ適用することはできない。
拠点同士で共有したいのは、次の判断材料だ。
- どのような状況だったか
- 利用者や家族は何を望んでいたか
- 何を確認し、何が確認できなかったか
- どの選択肢を検討したか
- なぜその対応を選んだか
- 実施後に何が起きたか
- もう一度行うなら何を変えるか
これらがあれば、他のケアマネジャーは自分のケースとの違いを考えられる。
「この方法が正しい」と配るのではなく、「この条件では、このように考えた」と共有する。
判断を一律にしないためにも、判断の過程を残す必要がある。
日常の小さな失敗も共有する
共有すべき失敗は、大きな事故や苦情だけではない。
- 連絡先が分からず調整が遅れた
- 担当者不在時に経過を確認できなかった
- 書類の保存場所が違い、探す時間が発生した
- 会議で決めた手順が現場に定着しなかった
- 新しい職員へ伝える内容が人によって違った
- AIで作成した文章の確認項目が不足していた
- 地域資源の情報が古く、利用条件が変わっていた
このような小さな詰まりを放置すると、働く人の負担や支援の遅れにつながる。
「誰が悪かったか」ではなく、「仕組みのどこで止まったか」を確認することで、改善へつなげられる。
拠点を越えた相談を、会議だけにしない
月に一度の会議で事例を共有するだけでは、日々の迷いに対応できない。
相談したいときに、次のことが分かる状態をつくりたい。
- 同じような経験をした拠点があるか
- 誰へ相談するとよいか
- 過去にどのような判断があったか
- その後、運用がどう変わったか
- 現在も同じ情報が使えるか
緊急性の高い相談と、後から振り返る事例共有を分ける。利用者を特定できる情報は必要な範囲に限定する。口頭で終わらず、次に使える形で残す。
会議の回数を増やすのではなく、日常の業務の中で相談と学びがつながる仕組みが必要になる。
CareSpaceを、拠点同士の学びを残す基盤にする
CareSpaceは、書類を保管するだけの場所ではない。
利用者ごとの経過、関係者との連絡、判断した理由、確認すべきことをつなぎ、必要な人が振り返れる状態をつくる。
拠点を越えて共有する場合も、個人情報と権限に配慮しながら、事例の背景、試したこと、改善内容を組織の学びとして残したい。
AIも、正解を出すためではなく、長い経過から論点を整理し、似た事例や確認すべき項目を見つけやすくするために使う。
人の判断を置き換えるのではなく、人が相談し、考え、改善するための材料を整える。
現在地|まず山形で、共有の型を試す
かいごの窓口には、全国の拠点がすでに存在し、完成した事例共有の仕組みがあるわけではない。
今は山形での居宅介護支援と事業運営を土台に、どの情報を残せば次の人の判断に役立つのか、どこまで共有すれば負担にならないのかを整理している段階だ。
最初から大きなデータベースをつくるのではなく、日々起きた小さな詰まりを一つずつ振り返る。
共有した内容が実際に使われたかを確認し、不要な項目は減らす。相談しにくい表現は変える。現場と一緒に共有の型を育てていきたい。
一人で正解を出す職場ではなく、迷いを持ち寄れる職場へ
ケアマネジャーの仕事には、マニュアルだけでは決められない判断が多い。
だからこそ、経験のある人だけが答えを持つ組織ではなく、経験したことを持ち寄り、次の判断へ生かせる組織が必要になる。
成功したことだけでなく、迷ったこと、うまくいかなかったこと、次に変えたいことを話せる。
失敗を隠さないことが、安心して働けることと、支援の質を守ることの両方につながる。
そのような学びのネットワークを、地域を越えてつくることも、かいごの窓口を全国へ広げる意味の一つだと考えている。
次回は、拠点を増やす前に、本部が現場から引き取る仕事と、地域へ残す判断をどう分けるかを書きたい。
一人で判断を抱えない働き方や、かいごの窓口での仕事に関心がある方は、応募を決めていない段階でもご相談ください。
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かいごの窓口で働くことに関心がある方へ
現在ケアマネジャーとして働いている方も、資格を持ちながら別の仕事をしている方も、まずは仕事内容や働き方を知るところからで大丈夫です。
