全国展開奮闘記 #13|新しく入ったケアマネへ、判断の道筋をどう引き継ぐか
居宅介護支援事業所で、新しく入ったケアマネジャーへ利用者情報や地域連携だけでなく、判断の理由まで引き継ぐ方法を紹介します。
執筆:かいごの窓口編集部

前回は、地域との関係を担当ケアマネジャー一人の記憶にせず、事業所の知識として残すことについて書きました。
誰と会ったのか。何を相談したのか。どのような約束をしたのか。次に何をするのか。
こうした経緯が残っていれば、担当者が休んでも地域との約束を止めずに済みます。
しかし、記録を残すだけでは十分ではありません。
新しく入ったケアマネジャーが、その情報を読んで自分で判断できるようになるまで、どのように仕事を引き継ぐのか。ここまで設計して初めて、事業所として仕事を受け渡せます。
今回は、山形市で1号店を立ち上げた経験を振り返りながら、利用者情報だけではなく「なぜそう判断したのか」まで引き継ぐ方法を書きます。
1号店の立ち上げ時、完成したマニュアルはなかった
かいごの窓口の1号店は、私たちが考えてきた構想を地元企業へプレゼンし、考え方に共感していただいたことから、一緒に立ち上げることになりました。
立ち上げ時点で、全国展開に使える完成されたマニュアルがあったわけではありません。
どのような居宅介護支援事業所をつくりたいのか。ケアマネジャーが一人で抱え込まないために、何を事業所の仕組みにするのか。地域との関係をどのように築くのか。
一つずつ話し合い、実際に動きながら形にしてきました。
この経験から分かったのは、手順だけを渡しても同じ事業所はつくれないということです。
必要なのは、手順の背景にある考え方や、迷ったときの判断基準まで言葉にすることでした。
引き継ぐべきものを4つに分ける
1.利用者・家族の現在地
基本情報、サービス利用状況、直近の変化だけでなく、本人と家族が何を大切にしているかを残します。
同じ支援内容でも、そこに至った理由が分からなければ、形式的な引き継ぎになってしまいます。
2.地域との関係と約束
医療機関、地域包括支援センター、サービス事業所など、誰とどのような経緯でつながったのか。相手から何を期待されているのか。次の連絡はいつ必要か。
連絡先の一覧ではなく、関係の背景を渡します。
3.判断した理由
なぜこの支援方針にしたのか。ほかにどのような選択肢があり、何を優先したのか。どこに迷いが残っているのか。
結論だけではなく、判断までの道筋を残すことで、新しい担当者も状況が変わったときに考え直せます。
4.次に確認すること
引き継ぎ時点ですべてが解決しているケースばかりではありません。
次回訪問で確認すること、家族から返答を待っていること、サービス事業所と調整中のことを明確にします。
「見て覚える」だけにしない
経験豊富なケアマネジャーほど、短時間で多くのことを判断しています。
しかし、その判断は本人にとって自然になりすぎていて、説明されないことがあります。
同行して見てもらうだけでは、新しく入った人は「何を見て、何を考えたのか」まで理解できません。
そこで、引き継ぎや同行の後には短い振り返りを入れます。
- どの言葉や変化が気になったか
- 判断に迷った場所はどこか
- なぜ今は動かないと決めたのか
- 次に状況が変わったら何を確認するか
答えを教えるだけではなく、考えた順番を共有します。
ルールと判断を分ける
新人教育では、すべてをマニュアル化しようとすると苦しくなります。
期限、法令、記録方法、連絡経路など、誰が行っても変わらないものはルールとして整えます。
一方、本人の希望、家族関係、地域資源、生活歴などを踏まえる支援は、一つの正解へ固定できません。こちらは事例を通して判断の視点を共有します。
ルールは迷わず進めるために必要です。判断は、その人らしい暮らしを守るために必要です。
両方を同じマニュアルへ押し込めないことが大切だと考えています。
AIやシステムは、答えではなく引き継ぎを支える
記録を検索しやすくする。過去の経緯を短時間で確認する。未対応の事項を見落としにくくする。
AIやシステムは、こうした部分で引き継ぎを支えられます。
ただし、本人や家族の気持ちをどう受け止め、どの支援を選ぶかという最終判断まで任せるものではありません。
必要な情報へすぐたどり着ける状態をつくり、そのうえで人と人が話し合う。かいごの窓口では、その組み合わせを大切にしています。
新しく入る人を、一人にしないために
ケアマネジャーの採用は、入職してもらうことがゴールではありません。
新しい環境で地域のことを学び、利用者さんとの関係を築き、迷ったときに相談しながら、自分の判断で動けるようになるまで支える必要があります。
全国へ広げるために必要なのは、1号店のやり方をそのまま複製することではありません。
1号店で生まれた判断の道筋を残し、それぞれの地域で考え直せる土台を渡すことです。
次回は、新しく入ったケアマネジャーが自分で判断できるようになるまで、どこまで支え、どこから任せるのかについて書きます。
かいごの窓口で働くことに関心がある方へ
現在ケアマネジャーとして働いている方も、資格を持ちながら別の仕事をしている方も、まずは仕事内容や働き方を知るところからで大丈夫です。
